日本料理 龍吟 野鴨の炙り焼2012

東京六本木にある日本料理店”龍吟”のスタッフ資料として作成されている料理VTRのコレクション
http://www.nihonryori-ryugin.com/

ジビエを使った日本料理に更なる可能性を・・・
これをテーマに野鴨の炭火焼を龍吟スタイルとして発表する。
2010年までに作っていたものから、今季2011年11月~2012年2月までに到達した、最新メソッドである。

今季は、皮のテクスチャーにスポットを当てた年だった。
野鴨、及び水鳥は、水面を泳ぐ際の浮力を維持する為、尾脂腺から脂を分泌して、羽をコーティングしている為、羽毛が水を全て弾き返し、鶏や鳩などと同じ方法での温水による毛抜き処理が出来ない。
その上、羽が生えている皮の表面は、肉眼では見えにくい一枚の薄い膜で覆われてしまっている。
鴨を焼いた際、皮目をパリッとさせたい為に鴨を干して皮の水分を減らしていたのだが、どうしても野鴨はうまく乾かず、蝋質をまとった様な状態になるだけで、鳩のようにはいかない。
ある日、銃弾の当たった鴨が網捕りの鴨の中に紛れ込み、その鴨はパラフィンを使用できず、素引きをした後、やむなくバーナーで毛焼きをした後に干しておいたら、弾が当たっている所だけがパリッと乾いており、これを見てから我々チームの研究が始まった。
もしかして野鴨の皮はパリパリに乾かせるかも知れない・・・そう信じて・・・

野鴨は、必ず網取りの無傷のものを用い、血の抜けている物は均一に熱が伝わらず、旨味に乏しい為絶対に使わない。
フェザーを抜き取り、ダウンはパラフィンワックスで完全に脱毛し、ワックスを冷やした時の、冷気で冷たくなった状態の鴨を、熱湯にくぐらせ、皮をピンと張らせる。
その後、もう一度表面を冷水で冷やしてから、バーナーを使って胸肉部分の皮を丁寧に炙って、目には見えづらい表面一枚の薄い膜を焼き切る。
それを舌用ブラシでこすり上げ、薄皮一枚をはがしてから風を当てると、皮の表面を完璧な状態に干す事が出来たのである。
その後、バトーにさばき、高温の油で香ばしく皮だけをパリッと作り上げ、その熱は筋肉に伝わるより早くクライアルジェットのマイナス196℃の冷気で冷ます。
その直後に、オイルバスで均一な火入れを施す。もも肉、内臓は”つくね”とし、骨からはスープを取る。さばいてフィレを炭火で炙り、肉汁を、やや躍らせ気味にする。
更に藁でいぶして、血の酸味や鉄分を肉汁と共に出汁のような旨さに変える”カツオのたたき”と同じ味の方向性を表現する。

胸肉の筋繊維がスポンジ状態となっている為、肉汁を蓄えている状態を完璧にキープした状態で口に運んでもらう為には、柳刃包丁を使って料理人の手でお造りを切り出すように、慎重に肉汁を押し出さないように切った物を皿に盛る。
皿の上でフォークに刺してカトラリーを使った食事では、肉汁が皿の上に流出してしまう位にあふれる状態に持っていき、料理人がこの大きさを一口で食べてもらいたいという想いを届ける事も、日本料理の完成度である。
瞬時に脂を沸かせる炭火の力で熱々の温度感をキープしつつ、パリンと割れるような皮目の食感と肉汁を閉じ込めている胸肉。
野鴨そのものを味わい尽くすこの一皿は、塩以外のものを必要とはしない。

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