東京六本木にある日本料理店”龍吟”のスタッフ資料として作成されている料理VTRのコレクション
http://www.nihonryori-ryugin.com/
2012年1月、スペインマドリードで開かれた世界料理サミット”Madrid Fusion 2012″において、Chef山本がステージ上で解説しながら発表した内容を、編集無しでそのまま公開する。
日本の伝統料理”魚の干物の炙り焼き”を分析し、干しながら熟成させる事で起こる、たんぱく質の変化やアミノ酸の形成、生の状態から旨味が増えていくそのメカニズムを、まず日本の食文化と歴史を交えて解説した。そして更にガストロノミーとしての進化を形にした龍吟が贈る新たな「干物」のプロセスと、日本近海の全ての海の幸、素材の豊かさ、クオリティーの高さ、扱う技術レベルの高さをステージ上から伝えながら、たった一匹の魚の可能性に向かい合う、一人の日本料理人の姿を披露した。
日本料理を海外で語ったり、伝える時にまず、日本人の持つ精神をしっかりと伝える事が大切であると考え、伝えてゆくのだが、精神性を伝える事は料理を伝える事より更に難しい・・・。我々日本人の感覚や価値観、精神性が世界の共通言語で伝えられ、語れるようになれば、自ずとフランス料理、中国料理の様に日本料理も料理界の世界共通言語として、国を超えて全ての人々に認知され美味しさを同一基準で語れるようになると我々は考えており、これからの活動テーマの1つと捉えている。
さてここで選んだ「赤ムツ」だが、この魚は身の中の脂肪、及び水分量が共に豊富であり、骨も鱗も余す所なく美味しさを表現出来る可能性を強く秘めた潜在能力に長けた素晴らしい魚である。Chef山本が香港で出会って衝撃を受けた、とあるレストランの脆皮鶏(ツイピーチー)のテクスチャーを理想としながら、このテクスチャーは魚にも応用出来るのではないかと考えるに当たり、赤ムツが最も理想の形になるのではという考えの元に試行錯誤を始めた。
鱗・皮・筋肉・ヒレ・骨…そしてドライエイジングの「理」全てに向き合ったのだが、プロセスはもとより、伝えるべきは2つの事。まず1つ目として素晴らしい旨さを持ちながらガストロノミーとして表現されてこなかった、干物の可能性をガストロノミーレベルに引き上げる事。
そして2つ目はテクニックは皿の上に表現するものだけではなく、魚そのものの中に秘するという事。見せない、気づかれないというテクニックも表現の一つであるという考え方を伝えたかった。
その真意はこの魚が、開いて焼いただけで理想とする美味しさの条件を、全て満たしているかのように皿の上からゲストに感じさせる事。パリンと割れるような皮の状態と、サクッと食べられる全ての骨に至るまで細部に渡り自然環境でパーフェクトなテクスチャーを備える、こんな魚があたかも存在しているかの如く料理を作り上げる事。プロセスは映像の通りだが、初めの1を生み出すまでは、さばき方を含め試行錯誤の連続だった。
魚一匹全てを大切に扱い、大切に味わう我が国日本の精神が、この一皿に宿る事を思い描き、我々の愛でる日本料理は世界中の全ての方々に愛される宝物でありたいと思う願いを込めて、2012年1月に完成を見た一品である。